VOL.4 1ダースのスーツ、2ダースのシャツ
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映画の衣装は、観客に登場人物のキャラクターやバックグラウンドを伝えることができます。
それも、簡潔かつ鮮烈に。例えば、のちに金融街のドレスコードを一変させた映画『ウォール街』に出てくるビジネスマンのスーツスタイルは、彼らの出自や階級を饒舌に物語っています。
本作の要となるのは、2人の登場人物。生き馬の目を抜く金融業界に君臨する帝王ゴードン・ゲッコーと、そんなゲッコーに出会ったことをきっかけに虚栄の世界に憧れるウォール街の若手証券マン、バド・フォックス。
成功のためには手段を選ばないゲッコーをマイケル・ダグラスが、出世の甘い誘惑に導かれるバドをチャーリー・シーンが、それぞれ演じています。
ゴードン・ゲッコーの衣装を演出したのは、実際の金融街の大物たちを何人も顧客に持つ人物であり、メンズファッションの古典的名著『Dressing the Man』の著者としても知られる、ニューヨークの服飾家アラン・フラッサーです。
マイケル・ダグラスが後年「衣装がゲッコーという役柄をつかむ鍵になった」と語るほど、フラッサーの演出は際立っています。
元々、マイケル・ダグラスはラフな格好を好むカリフォルニアの若者でしたが、フラッサーはそんな彼に、自身の経営する店で12着のスーツ、24枚のシャツ、シルクのネクタイを誂えました。
スーツの縫製はニューヨークの名門テーラー、マーティン・グリーンフィールドが担当し、シャツは最高級のカスタムシャツや紳士服を手掛けるアレクサンダー・カバズが制作。
ゲッコーの衣装には映画全体の衣装予算のうち20%があてられたと言われており、撮影後にマイケル・ダグラスがその衣装をすべて買い取ったという逸話も残っています。
ゲッコーの着こなしの中でも象徴的なのが、サスペンダーでしょう。ジャケットを脱いでいるシーンはもちろんのこと、上着の内側からも存在感を発揮するサスペンダーは、ゲッコーのスタイルには外せない重要なピースです。
しかしながら、この演出は必要から生まれたものだったといいます。実は、マイケル・ダグラスはウエストが細いあまり、サスペンダーなしではパンツが落ちてしまったのです。
緻密な設計のもとに組み上げられたゲッコーのスタイリングですが、この一点だけは、フラッサーの計算が狂った部分なのかもしれません。